研究概要 |
昨年度の研究の継続としてNb/NiFe/Nbナノ構造の低温輸送物性を測定した。強磁性NiFe層を近接効果で流れる超伝導電流の観測に成功したが、その臨界電流はNiFeの磁気構造に依存しなかった。また、イオンビームスパッタ法によってNiFe/(Nb,Pt,Cu)複合膜を作製し、逆スピンホール効果の検出を試みた。試料面内に磁場を印加しつつ周波数一定のマイクロ波を試料に照射し、常磁性金属層に生じる起電力の磁場強度依存性を測定した。マイクロ波によってNiFe層が強磁性共鳴状態にあるとき、スピンポンピング効果によって常磁性金属層に界面垂直方向を向いた純スピン流が生じる。このとき常磁性層のスピン-軌道相互作用によって純スピン流は電流に変換される(逆スピンホール効果)。この電流の流れる方向は、NiFe層の磁化ベクトルの方向即ち外部磁場の方向にも垂直であるため、常磁性層に生じる起電力の外部磁場依存性を測定することにより逆スピンホール効果を選択的に検出できる。本研究ではNiFe(10nm)/Pt(7nm)複合薄膜にXバンドマイクロ波を照射することで10nVの逆スピンホール効果による起電力の検出に成功した。この信号はNbやCuとの複合膜では観測されなかったことから、Pt中の大きなスピン-軌道相互作用が逆スピンホール効果において重要であることを示している。逆スピンホール効果は金属・超伝導体中の純スピン流を検出するための現在唯一の手法であり、本成果はスピントロニクス研究の大きな推進力となると期待できる。
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