研究概要 |
一次元強相関電子系における、不純物障壁ポテンシャルを介したトンネル伝導特性について調べている。この問題に関しては、不純物ポテンシャルによる電子後方散乱に対して電子間斥力相互作用による繰り込みの効果が働くことで、散乱振幅が温度の低下とともに増大し、低温で電子が完全反射されることが知られている。しかし、我々は、昨年来の研究により、この系に磁場を印加することで、不純物による電子散乱振幅の繰り込みフローの振る舞いが劇的に変化し、磁場に平行なスピンを持つ電子に対する不純物散乱が、温度の低下とともに抑制されうることを発見した。本年度は、この結果を、国際学術雑誌へ発表した[T.Hikihara, A.Furusaki, and K.A.Matveev, Phys.Rev.B 72,035301(2005)]。 上記の結果は、一次元強相関電子系の低エネルギー有効モデルである朝永=ラッティンジャー流体模型を用いた結果であり、ポテンシャル散乱が強い、または、弱い極限における散乱振幅の振る舞いを、正しく記述していると期待される。しかし、よりさまざまなタイプの不純物の広範な強度領域に対して、より定量的な議論を行うには、電子系及び不純物をミクロスコピックに記述したモデルに対する直接的な解析を行うことが望ましい。このため、本年度は、ミクロスコピックなハミルトニアンに対する直接数値計算を通して、不純物散乱強度を定量的に評価するための理論的枠組みの構築に取り組んだ。現在は、その中から得られた解析手法を、実際の問題に適用することで、解析スキームの改良、及び、それを用いた研究の進行に着手している。
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