研究概要 |
本研究の初年度である16年度は、(1)層状遷移金属を母体としたソフト化学反応実験と、(2)単結晶の数十ミクロン程度の微小部分における電子輸送特性の精密測定を別個に行い、最終目標であるソフト化学生成物の電子輸送特性精密測定の基礎となる結果を得た。 (1)に関しては、層状コバルト化合物であるNa_xCoO_2及びH_xCoO_2に対して、層間に水分子を挿入するソフト化学反応を進行させた結果、Co原子価が増加することを確認した。このことは、反応の結果CoO_2層にホールが注入されていることを意味するので、17年度にはそこでの2次元電気伝導を調べる。 一方、(2)に関して、容易に表面が平坦な結晶が得られる有機分子性物質を用いて、電子輸送特性測定法を工夫した。導電性シリコンの表面に酸化シリコン層のある基板上にフォトリソグラフィーによって10ミクロン間隔で電極をパターンし、ルブレン単結晶表面を静電引力で貼り付ける方法で単結晶の微小部分の電気伝導測定を可能にした。この構造においては、導電性シリコン部分をゲート電極とすることにより電界効果トランジスターが形成されている。デバイス形状を正確に6端子型に成型するなどの工夫の結果、ルブレン単結晶の伝導度を電界及び磁界をパラメーターとして精密に測定することが可能になった。電界効果測定の結果、トランジスターのon-offスイッチの応答が通常の有機(多結晶薄膜)トランジスターに比べて一桁程度も鋭くなることを示した[J.Takeya et al.,Appl.Phys.Lett.85,5078(2004)]。磁界の効果としては、横電圧測定のSN比をホール電圧の測定に必要な程度(縦方向電圧の約1/1000)に改善した。こうして、初めて有機電界効果素子のホール効果を観測できれば、未だ明らかでない電界誘起されたキャリアが伝導する機構の解明につながることが期待できる。
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