層状遷移金属化合物を母体として常温常圧に近いソフトな条件においてイオンや分子を付加あるいは挿入する手法は、自由度の高い物質設計の手法であるが、mm級の均質な単結晶を得にくいために、精密な輸送特性が困難である。そこで、本研究では微小な結晶でも精密な電子輸送特性が測定できるよう、絶縁性基板上に微小電極を形成した"電子伝導測定チップ"を作製し、その上に結晶を貼り合わせることにより伝導度を測定する手法を開発してきた。研究を進めるに従って、本手法が層状遷移金属化合物のみならず、微小な有機半導体単結晶などにも適用できる汎用性を有することが明らかになってきた。即ち、弱いvan der Waals力による層間方向の結合が層の面内に比べて極端に弱い結晶においては、非常に平坦な表面が自然に得られやすいため、静電的に基板に貼り合わせる際に金などの電極との良好な電気的接合が可能になる。加えて、結晶とは反対側の基板に金属面を構成することによって、電界効果トランジスタ構造を構成し、層状結晶の伝導度をゲート電界によって変調できることも示された。終了年度である今年度は以下の2項目の実験研究を行い、次項目の成果発表を行った。 1)厚さ1μmの薄片状結晶を用い、上下の両面に電界効果トランジスタ構造を構成した。このダブルゲート構造を作製し、薄片状結晶の表面ではなく、中心部にも電荷導入することが可能であることを示した。電界効果は一般には表面ドープの手法であると考えられていたが、この構造を用いれば、バルク中にキャリアをドープすることも可能であることが示された。 2)電子伝導だけでなく、微小単結晶測定用の"熱伝導測定チップ"の開発も行った。チップを構成する材料は、電気伝導測定の場合には絶縁体によって絶縁すれば十分であるが、熱伝導測定チップにおいては、熱的にも絶縁する必要がある。本研究では、1μmの酸化シリコンメンブレーン上に微小な温度センサーとヒーターをMEMS技術によって構成することによって、これを可能にした。
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