今年度はBrian Forbes氏とともに、局所ミラー対称性において使われるピカール-フックス微分方程式の可積分系的観点からの研究を行い、大きな理論的進展を得た。 これまでに知られている局所ミラー対称性の理論においては、理論で扱う開カラビ-ヤウ多様体のトーリック多様体としてのデータから得られるピカール-フックス微分方程式系は、解空間が十分な大きさを持たないために、開カラビ-ヤウ多様体のグロモフ-ウィッテン不変量を完全に求めるには不十分であった。この状況において、我々はピカール-フックス微分方程式系を系統的に変更することによって、拡張されたピカール-フックス微分方程式系を構成し、グロモフ-ウィッテン不変量を完全に求める事に成功した。 拡張されたピカール-フックス微分方程式系の具体的な構成の手順において鍵となるのは、開カラビ-ヤウ多様体の古典的交点数を仮想的に定義することである。これにより、その交点数と適合する開カラビ-ヤウ多様体の古典的コホモロジー環の関係式を決定できる。次に、元々のピカール-フックス微分方程式系をここで得られた古典的コホモロジー環の関係式と無矛盾になるように変更するのである。 この成果は研究費を用いて購入した高性能計算機による膨大な計算結果から得られたものである。また今年度末に海外旅費を用いて、カリフォルニア大学ロサンゼルス校において紹介し、討論する予定である。なお、これらの成果を、これまで手がつけられていなかった凸性を持たないトーリック多様体に拡張する方法も、これまでの申請者による研究成果である一般ミラー変換という手法等を用いて得ることができた。この成果も今年度末に発表する予定である。 一方前年度に得られていた、中村氏との一般型の超曲面のグロモフ-ウィッテン不変量に関する結果を、海外旅費を用いてソウル大学との合同シンポジウムにおいて発表した。
|