フラストレーションを誘起するひとつのメカニズムとして、従来の交換相互作用以外にも、多体交換相互作用と呼ばれるものがある。これは、従来、ヘリウムなどの磁性を理解するうえで重要とされてきたが、実は高温超伝導体の母物質である銅酸化物でも無視できない効果を持っているらしいことがわかってきた。ごく最近の理論的考察から、たとえば4体の交換相互作用を考慮することにより、いくつかのエキゾチックな量子相が安定化するらしいことがわかってきた。また、ヘリウム、有機導体の実験から、このような多体交換相互作用が格子の幾何学的フラストレーションとあいまって新しいタイプの量子相を実現する兆候が見られるなど、多体交換相互作用をめぐる物理は現在大変ホットな状況にある。これをふまえ、まず理論的な扱いの比較的容易な1次元系(梯子状に磁気モーメントが並んだモデル)での多体交換相互作用の効果を調べた。従来、このような系では、さまざまな相が個別に発見されてきたが、今回、研究代表者は、フランスのPhilippe Lecheminant氏と共同で、対称性の高い点(多重臨界点)を出発点にしてさまざまな相を組織的、統一的に扱うことを試みた。その結果、従来から知られていた新奇な相に加えて、新たに2つの相が見つかった。我々の理論は、(新しく見つかったものも含めて)これらの相の間の関係も明らかにしてくれる。これは、これまで行われてきた主として数値的なアプローチでは解明できていなかった点である。現在は、この手法を2次元以上の系に拡張することを試みている。また、実験的に新たに合成された2次元スピンギャップ物質について、その基底状態、磁化過程、磁気励起の性質の解明にも取り組んでいる。
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