今年度はTwo-gap超伝導体MgB2の渦糸格子の滑り抵抗(渦糸状態のフラックス・フロー抵抗)に関する理論的考察を行った。本研究の概要を述べる前に、MgB2の基礎的な性質から説明する。MgB2は金属化合物中で最高の超伝導転移温度を持つ物質として非常に大きな注目を集めている。この超伝導体には基本的に二つのフェルミ面が存在し、それぞれのフェルミ面上に振幅が大きく異なる合計二つのs-波の超伝導ギャップが開いている事が知られており、これはtwo-gap構造と呼ばれている。この物質のフラックス・フロー抵抗が最近実験的に調べられた。通常s-波超伝導体のフラックス・フロー抵抗は磁場に比例する事が知られている(Bardeen-Stephenの関係式)。ところが最近の松田祐司らの実験によると、MgB2はs-波の超伝導体であるにもかかわらず、そのフラックス・フロー抵抗は低磁場領域でBardeen-Stephenの関係式で与えられる値よりも極めて大きく増幅されていることが明らかにされた。このパラドックスを解決する事が本研究の目的である。 本研究の概要を述べる。two-gap超伝導体の渦糸状態に電流を流すと、二つのバンドそれぞれに電流が分配され、各バンドでフラックス・フロー抵抗が発生しエネルギ損失が生じると考えられる。超伝導の対称性がs-波であることから、各バンドのフラックス・フロー抵抗はBardeen-Stephenの関係式で与えられるように磁場に比例するとする。そして電流の各バンドへの分配の比はフラックス・フローによるエネルギー損失が最小になるという条件を課す事により決める。これらの条件下で系全体のフラックス・フロー抵抗を求めると、各バンドのフラックス・フロー抵抗の並列つなぎで与えられる事が解る。ここで、振幅の小さいギャップは大きいギャップに比べて磁場により早く破壊されるという実験的事実を反映するような適当なパラメター領域を選ぶと、我々の計算結果と実験結果の間に極めて良い一致を見る事が出来た。
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