研究代表者は2-ギャップ超伝導体の渦糸格子の滑り摩擦の研究の延長として、2-ギャップ超伝導体の渦糸の特異現象を理論的に解析した。2つのギャップ関数の間にはジョセフソン型の相互作用があるため、相対位相がバルクで一定の状態、すなわち二種類の渦が同じ場所に閉じ込められた状態がエネルギー的に安定である。この状態が荷なう磁束は単位磁束量子の整数倍に量子化される、すなわち通常の磁束量子状態となる。ところが二種の渦が分離したとすると単位磁束が二つの渦に分割され、分割の比は二つの超伝導ギャップの振幅の2乗の比となる。この比は一般には温度依存する。すなわちそれぞれの分割渦が荷なう磁束は温度に依存して連続的に変化しうる量となる。2種の渦が分離した状態は同じ場所にある状態と比べエネルギー的に損をするが、エントロピー利得のため温度上昇とともに分離、さらには非閉じ込めが生ずる可能性がある。もう少し具体的に述べると、2種の渦が分離している状態ではジョセフソン型の相互作用のために渦の間で相対位相が2πの整数倍ジャンプする線状の領域、すなわちストリングが生じる。ストリングの生成エネルギーとエントロピー利得の競合で2種の渦が同一点に閉じ込められるか、有限距離分離するか、さらには非閉じ込め相に転移するかが決まる。閉じ込めエネルギーは試料の膜厚に比例する。MgB_2単一層膜では(超伝導ギャップが開く)BCS転移温度の9割程度の温度で非閉じ込めが生じる事が示される。この結果は現在Physical Review Letters誌に投稿中である。 また、チャーン数と呼ばれるk-空間中の渦度に関する研究も行った。プロッホ電子系の量子ホール効果の類似現象として2次元および3次元系における超流動3He渦糸状態のスピンホール伝導度(スピン流に対するホール伝導度)がチャーン数と呼ばれる位相不変量によって表される事を断熱近似の下で導いた。これらの議論の一般化をすすめ、周期的断熱過程と位相不変:量の間の一般的関係を見出し、そこからACジョセフソン効果と位相不変量の間の関係、および半導体のスピンホール伝導度のチャーン数による表示が得られるための条件を示した。また、断熱近似を超える計算を行うとホール伝導度の位相不変量表示に対して時間依存する補正項が存在する事を示した。
|