銀とアンチモンを溶かした水溶液に金属電極を挿入し、この金属電極表面上に、水溶液に溶けている銀とアンチモンを電気吸着させ、銀とアンチモンの電着膜を電極表面上に形成させる。その際、その電着膜表面に白と黒からなる時空間パターンが観察できる。この時空間パターンは、10μm程度の幅の、銀リッチな白い縞とアンチモンリッチな黒い縞から形成されており、電極表面に銀とアンチモンの電気吸着が続く限り、電着膜表面上を1μm/s程度の速さで動き続けるのが観察できる。この時空間パターンの形成メカニズムは現在明らかにされていない。今年度は電着膜表面に観察できる時空間パターンの白と黒の縞の導伝率を正確に測定するために、まず時空間パターンの下に存在する電着膜の状態を調査した。 この系は実験中、常に銀とアンチモンが電極に電気吸着し続ける系であるため、電着膜の厚さは時間と共に厚くなってくる。そのため、その表面に観察される時空間パターンの履歴が縞模様となって電着膜内部に残っている可能性がある。 電着膜内部を調査するために、FIB(Focused Ion Beam)で表面からスパッタリングし、電着膜内部に達する穴を形成した。その穴内部を光学顕微鏡、及びSEMで観察したが、時空間パターンの履歴としての縞模様は内部に観察されなかった。さらに、その穴内部に対して、EPMA(Electron Probe MicroAnalyzer)を使用して、元素分析をもおこなった。もし、時空間パターンの履歴が内部に残っているならば、内部の元素濃度は時空間パターンの元素濃度と等しくなるはずであるが、実験結果は、電着膜内部の元素濃度が時空間パターンの元素濃度とは全く違うことを明らかにした。このことから、時空間パターン下の電着膜は時空間パターンとは全く違う状態であることがわかった。
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