本研究課題の最終年度である本年度は、前年度に設計したブレーズ型回折格子を空間位相変調器に入力し、ルビジウム原子のボース凝縮体(BEC)を捕獲、制御する実験の安定化、最適化を行った。 前年度の実験から、BECを安定に光ポテンシャル中に保持するにはトラップ体積を大きくとり、原子集団の数密度を下げる必要があることが分かっていた。そのため、今年度はSLMで操作するレーザー光と直交する方向からもう1本別のレーザー光をBECに照射し、交差型光トラップと呼ばれる配置に変更した。この方法によりBECのトラップ体積をかなり高い自由度でコントロールできるようになった。これら光ポテンシャルのパラメータを最適化することのより、前年度は200ミリ秒程度しかなかったBECの光トラップ中での寿命を、2秒程度まで延ばすことに成功した。今回実験で用いたSLMは応答速度が遅く、 BECを分裂させるまでに0.5秒程度の時間がかかるが、達成した寿命はこの操作時間より長く、トラップ中のBECをそのまま分裂させることが可能となる。 実際にSLMでBECを分裂させる際には1本のレーザー光は固定したまま、もう1本をSLMで変調し、1本のレーザー光スポットを2つに分裂させて行った。その結果、原子雲がレーザー光の変化に追従して分裂する様子が観測できた。このとき、前年度に問題になっていた原子雲の加熱はほとんどなく、分裂した原子雲はそれぞれ独立なBECであることも確認できた。また、2つに分けたBECを再度1つに戻す実験にも成功した。これは当初、原子波干渉計構築を目的とするものであったが、残念ながら今回の実験では2つに分ける時間が長すぎて2つのBECのコヒーレンスが消失し、1つに戻しても干渉効果を確認するには至らなかった。このような実験を行うためにはより応答時間の早いSLMを用いる必要がある。 現在これらの実験結果に関して、論文投稿の準備中である。
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