研究概要 |
現代の量子化学や物理の分野において、多電子系における電子間の相互作用をどのように取り扱うかという問題は最も重要なテーマの一つとなっている。本研究は、電子衝撃二重イオン化実験を用いて電子運動の相関を直接観測する手法を確立し、電子相関の本質に迫ることを目的とする。これを実現するため、散乱ダイナミクスが明確に分っている高エネルギー、高移行運動量領域において、電子衝撃二重イオン化で生じた二つの電離電子と散乱電子の計三つの電子を同時計測法で検出する手法を開発する。 本年度は3重同時計測実験の前段階として、Heをターゲットとした電子衝撃二重イオン化過程で放出される3つの電子のうち、高速で飛び出す二つの電子のみを同時計測する(e,3-le)実験を行った。最近開発されたマルチチャンネル型分光器を用いることで、9a.u.という大きな移行運動量での測定を実現している。さらに、ロシアのグループとの共同研究により平面波撃力近似(PWIA)に基づく理論的な(e,3-le)微分散乱断面積を様々なHe波導関数を用いて計算した。実験と理論計算との比較などから、高移行運動量領域における(e,3-le)過程の微分散乱断面積は電子相関を敏感に反映していることが明らかとなった。これらの結果より、二重イオン化過程の散乱断面積に現れる電子相関の効果や、一次のボルン近似を超えたtwo-stepメカニズム等の高次プロセスの影響などについて新たな知見を得ることができた。現在、本成果を論文としてまとめている最中である。
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