研究概要 |
現代の量子化学や物理の分野において、多電子系における電子間の相互作用をどのように取り扱うかという問題は最も重要なテーマの一つとなっている。本研究は、電子衝撃二重イオン化実験を用いて電子運動の相関を直接観測する手法を確立し、電子相関の本質に迫ることを目的とする。 標的の電子相関を調べるためには、高移行運動量領域における電子衝撃二重イオン化過程の散乱ダイナミクスに対する正確な理解が必要となる。本課題における実験、理論双方からの研究により平面波撃力近似(PWIA)に基づくshake-up過程だけでは二重イオン化の実験結果を説明できないことを明らかとし、その成果を論文として発表した。更なる二重イオン化過程の理解のため、二次のBorn近似計算に基づく散乱断面積の計算手法を開発し、two-stepメカニズムの影響を調べた。この際、二重イオン化と近い過程である励起を伴うイオン化過程についてまず計算を行った。更に、1.2〜4keVという広い入射電子エネルギー領域にわたってbinary (e,2e)実験を行い、理論計算と比較検討した。その結果、本過程においてtwo-stepメカニズムが重要な役割を果たしているという興味深い知見を得た。また、この計算方法がMgの(e,2e)実験の解釈にも有効であることを、メリーランド大学のグループとの共同研究で示した。現在本手法を二重イオン化についても適用し、その反応メカニズムの詳細についての検証を行っている。この散乱ダイナミクスの理解により、実験結果から標的の電子相関の情報を明確に抜き出すための基板を得る。
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