H18年度も継続してイッテルビウムを対象とした遠共鳴レーザー光による光マスク生成と、それを用いた原子リソグラフィー研究を実施した。前年度までに光マスクの相互作用長と光強度及び原子ソースの空間広がりが原子描画性能に及ぼす影響を明らかにしたので、今年度は原子の速度特性が当該リソグラフィー法の描画性能に与える効果を調べることを目的とした。 Yb熱原子線をゼーマン減速法で減速させ、速度可変で低速化した原子ビームを対象にした。この低速Ybビームに遠共鳴光マスク(波長532nm、相互作用長10ミクロン、光出力10W)を相互作用させ、原子の運動軌跡を求めた。当初の予想では原子の速度が遅くなるほど高分解能な原子描画か可能になるであろうと期待したが、実際の結果はそうならず、速度200m/sで分解能100nm、100m/sで30nm、50m/sで75nm、25m/sで10nmと、速度に依存した描画分解能が得られた。このようなfocusingとdefocusingの機構を探求した結果、光定在波(光マスク)の双極子力ポテンシャル上における原子の振動にその原因を求めることができた。この結果により、上記実験において原子リソグラフィーの描画性能が原子の速度分布幅にはあまり影響されないこと、速度の値(分布ピーク)には大きく依存することが避けられない事実を見出した。さらに双極子力ポテンシャルを調和振動子型ポテンシャルで近似したところ上記の物理現象をうまく再現し説明できることを明らかにした。同時にそのシミュレーションから10nmレベルの描画分解能を達成する物理的条件も求めることができた。 以上の研究成果について、国内会議1件(日本光学会)、国際会議1件(CLEO/QELS2006)の口頭発表を行なった。また、本研究の成果を総合的にまとめた論文を執筆中であり、欧文誌に投稿予定である。
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