1.部分神経回路に対する有効理論の改良:線虫の行動を神経回路ベースで理解するには、非線形回路における切り出し問題を解決した有効理論が必要である。そこでこれまで、動的平均場近似を用いた有効理論を提案してきた。しかし、FitzHugh-Nagumoニューロンを結合させた系にこの有効理論を適用すると、結合が大域的な場合は精度がよいが、スモールネットワークなどの結合が局所的な場合には精度がよくないことがわかった。この問題を解決するには、有効場に対するパラメータ値に結合の局所性情報を反映させる必要があることがわかった。 2.行動学習とシナプス可塑性:線虫はタッチ刺激などの機械刺激への慣れ、嗅覚順応、温度学習などの行動学習を示す。これらの行動学習を神経細胞・神経回路レベルで理解することを目標に、特に多くの実験データのある機械刺激への慣れに関して、実験結果を再現するための数理的枠組みを検討した。神経伝達物質のシナプス小胞への取り込みが低下している変異体の実験結果に基づき、化学シナプス結合の重みを低下させると慣れの実験データのいくつかを再現させることがわかった。しかし、化学シナプス結合の重みを本来の値の85%以下にまで低下させると、ギャップ結合との結合バランスが崩れ、機械刺激に対する退避行動を再現することができない。化学シナプス結合の可塑性の選択性とギャップ結合の重みの変化についても検討する必要があることがわかった。 3.神経結合表示システムの改良:本報告者らが作成した線虫の神経結合データベースを利用した神経結合表示システムを作成し、WEB上で公開してきた。このシステムを、データベースにあるコメントインデックス欄の情報を利用し、ユーザの要求に応じた細かな設定ができるように改良した。
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