コレステリック液晶の配向ベクトルはらせん構造を持っているが、そのピッチは温度に強く依存している。もし、液晶分子が追随できないほど急激に、温度が変化したならば、らせん構造には一体何がおきるだろう?また、どのような過程を経て、らせん構造はその温度に適したピッチを回復するであろう?我々は、上のような疑問から出発し、コレステリック液晶に急激な温度変化を与える実験を行った。試料として用いたcholesteryl oleyl carbonateは、室温付近で可視光領域の光を選択反射し、温度の上昇とともに急激にピッチは短くなる。この試料を、一定の変化率で温度上昇させながら、顕微鏡による観察・透過光のスペクトルを測定し、次のような実験結果を得た。 (1)急激な温度上昇を与えると、過渡的に網目状の空間パターンが生じる。パターンの大きさは、20-40ミクロン程度である。 (2)パターンが生じるためには、温度変化率に閾値があり、およそ0.5mK/s程度である。また、パターンのサイズは、温度変化率に大きくは依存しない。 (3)透過光のスペクトルには、らせん構造による選択反射成分に加えて、新たな成分が出現する。その成分は急速に短波長側に移動し、最後には紫外線領域から裾を引くようなブロードな形状をとる。 コレステリック液晶は、らせん軸にそって電場や磁場などの外力を印加すると、周期的な歪を持った状態が安定化し、セル状の空間パターンが出現することが知られている。今回の測定は、急激な構造変化という非平衡な状況下でも同様な空間的パターンが、実現されることを意味している。
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