本補助費によって導入したファイバーカップリングレーザーシステムと既存の光学顕微鏡を組み合わせた実験系を構築した。光ピンセットの捕捉効率を向上させるため、一対の円錐状プリズム(アキシコンプリズム)を利用してリング状に変形させたビームを顕微鏡の無限遠光学系に導入した。本構成は、アキシコンプリズムの片方を通常の凸レンズに交換すれば超高輝度の暗視野顕微鏡や顕微光散乱装置としても使用できる。この効率化によって、細胞組織の光学損傷が大幅に抑制され、生理条件下で長時間の実験が可能となった。しかし、本レーザーは発振波長785nmと視認性が低いため、本補助金で追加購入した670nmのレーザーを光路調整用に同軸入射し補助的に使用した。本レーザーも350mWと光捕捉力を得るには十分であるので、光学系の一部を自動化すればダブルトラップ式の光ピンセットとして使用可能である。 一方、逆流現象に関する予備実験として順方向と逆方向の流速を測定した。流速は、原形質中に分散する顆粒状組織の顕微鏡画像を自動処理することによって計測し、統計的に評価した。実験は、粘弾性の過渡応答を詳細に観察するため人為的に流動を一時的に停止又は低速化させた状態で行った。本実験では、細胞に電気パルスを印可する手法と細胞全体を冷却する方法の二法を適用した。その結果、電気パルス法では順方向と逆方向の流速分布はほぼ対称的であったが、冷却法では逆流速度が著しく低下し分布も非対称になることを発見した。これは、温度低下によってモータタンパク質の結合特性が変化して、見かけ上の「摩擦」が変化した可能性があると考えている。現在、構築した光ピンセットによって流動場中の顆粒を捕捉・操作して、低温下で逆流速度が低下する原因を明らかにする準備を行っている。結果は、本年度中に生物物理学関連の専門誌に投稿する予定である。
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