小惑星は太陽系の衝突進化に於いて常に中心的な役割を果たして来た天体である。その中でも地球に極めて接近して衝突の可能性すらある天体は地球接近小惑星と呼ばれ、活発なサーベイ観測の対象となっている。地球接近小惑星の力学進化や惑星との具体的な衝突史については昔から多くの研究者が様々な仮説を立てて様々な推論を述べて来たが、実はその多くは単なる推測や憶測に過ぎず、精密な実証的研究はまだほとんど為されていないというのが現実である。本研究では天文観測と理論的な数値シミュレーション、および惑星地質データから得られた知見を組み合わせる新しい見地からこの問題に取り組み、小惑星の衝突現象とクレーターの起源、そして地球の初期史に関する新しいシナリオを構築する。 地球接近小惑星やクレーターの起源に関する実証的で定量的な研究が少ないのは、議論の根幹となる観測データがそもそも存在しないことがひとつの理由である。例えば小惑星の軌道進化や惑星への衝突の数値実験結果を月や惑星上のクレーターのサイズ分布と比較検証するには、小惑星のサイズ分布のデータが必要である。しかし現時点では比較的大きな小惑星(直径2-3km以上)のサイズ分布しか知られておらず、個数がより多いと思われる直径1km以下の小惑星に関するサイズ分布の情報は殆ど存在しない。また、小惑星破片の自転速度の分布は太陽エネルギーの吸収放散による小惑星の軌道変動過程(Yarkovsky効果と呼ばれている)に於いてとても重要な意味を持つが、これを知るための観測である小惑星の光度曲線の観測もごく限られた小惑星に関してしか行われていない。 本研究の一年目では、小惑星のサイズ(質量)と自転速度の情報を得るための天文観測を実施した。年度の後半からは、族を形成する小惑星の自転速度の観測(光度曲線観測)を国外にある口径2m前後の中規模な望遠鏡を使って集中的に実施した。今回は特に、Karin族と呼ばれる若い(=約500万年前の衝突イベントによって形成されたと思われる)族の小惑星に着目している。小惑星の族の年齢は一般に古く、数億年から数十億年と推定されている。これに比べ、ごく最近形成されたと思われるKarin族は小惑星の衝突破壊時の情報を良く保持していると期待される。この光度曲線観測によって衝突破壊直後の小惑星破片の自転速度分布が推定できれば、Yarkovsky効果によりもたらされる小惑星の軌道変動の影響を推定でき、次の段階で行う数値シミュレーションのための極めて重要な入力情報が得られるはずである。今年度の観測結果は「11.研究発表」内の[雑誌論文]に記載された論文群として発表されている(ここに記された論文の他に投稿中のものも多く存在する)。
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