本研究は、霧の観測を通して、水蒸気凝結成長による大気エアロゾルの変質機構を解明することが目的であるが、都市域において頻発する靄が、霧と似た微物理的構造(たとえば粒径分布など)を有していることが観測から明らかとなったため、本年度は、都市域において靄発生時及び消滅後の大気エアロゾルの粒径分布を捉える観測に力を入れた。これは、都市域に位置する本学において観測が行なえることや、濃度レベルが高いため化学組成分析が容易であるといった利点に加え、霧に比して靄の観測例が国内外において極めて少ないためである。観測の結果、これまで大気環境科学の分野においてあまり注目されていなかった粒径10μm以上のエアロゾルが比較的高い濃度で存在していること、その個数濃度に日変化があり日中高濃度となる傾向があること、その主成分が海塩や土壌成分だけでなく硝酸塩を豊富に含んでおり、これが硝酸塩の乾性沈着量に大きな影響を及ぼしていることなどが明らかとなった。粒径10μm以上のエアロゾルは吸湿しているケースが多く、これは酸化マグネシウム薄膜を用いた観測からも明らかである。また、水蒸気凝結により粒子自体が希薄になっているわけではなく、化学成分を高い濃度で含んでいることもわかった。これは水蒸気凝結に伴い酸性ガスなどの水溶性ガス成分が取り込まれたためと予測され、これはエアロゾルの水蒸気吸収特性にも大きな影響を及ぼし、粒子成長を加速させる可能性も考えられる。一方、丹沢大山における霧の観測も並行して行い、霧の化学組成とこの支配要因についてのデータも蓄積してきた。霧が多発する大山においても粒径10μm以上のエアロゾルは都市域と同じ濃度レベルで存在しており、その生成には相対湿度だけでなく、水溶性成分の取り込みが重要であることが予測される。
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