研究概要 |
海洋内部領域における3-5度の南北スケールを持つ東西流(東西ジェット)のメカニズムを探るために、昨年度の成果を踏まえ、以下の研究を実施した。 渦効果の見積もり:準地衡流近似のもとで、海洋大循環モデルの渦の効果を直接評価することを試みた。渦の見積もりでよく用いられる簡便な仮定を使わない枠組みで評価を行った。球面上の渦の働きには、運動量をジェットの裾から中心に集めようとするものと、温度塩分フロントの勾配を弱めようとするものの二つがあり、前者は、東向きの流れを強め、後者はジェットの構造を鉛直一様とする。今回の見積もりでは後者が卓越し、海面付近の強いエネルギーが渦により深層に運ばれていることで、深層の東西ジェットは維持されていることが示唆された。 観測との比較:東西ジェットの南北スケールの空間分布を、ウェーブレット解析を用いて調べた。この解析結果と、最近得られた衛星データを使った全世界の表層の東西ジェットの解析とを比べ、流れが非常に弱い太平洋の東半分、特にアメリカ海岸近くでは南北スケールが小さく、流れが強い西太平洋では一般に大きいなどの定性的な一致を得た。渦活動が南北スケールに影響を与えている事を示唆した。 理想的な実験:プリミティブ方程式を解くモデルとしては、もっとも単純な2層の層モデルを作成して実験を行った。この場合、明瞭な東西流ジェットの発生は海底摩擦の効果が十分小さいときに限られた。ただし、この場合でも現実の設定で行った場合の東西流ジェットと異なり、平均場と瞬間場とで大きさに大きな差が現れた。層モデルに含まれない、海底地形などがその違いに寄与する事が示唆された。 東西ジェットの研究は、ここ1,2年で全世界的の海洋学者の間で、盛んに行われる研究の一つとなった。その先駆的研究の一つである本研究は、東西ジェットの成因に対して、特に渦活動の重要性を示唆した。
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