米国の火星探査機Mars Global Surveyorに搭載された赤外干渉分光計TESで得られた分光スペクトルから、水平スケール数十〜数千kmの擾乱の時空間分布を探った。TESは探査機の太陽同期軌道上から直下視で波長6〜50μmの地表面および大気からの熱放射を分光計測している。ほぼ南北方向の軌道上でおよそ緯度0.1°おきにデータ取得し、軌道は周回ごとに(火星の自転により)約30°経度がずれる。我々は大気中の微小な擾乱に注目するにあたって、CO_2 15μm帯の中心波数668cm^<-1>における、衛星軸道に沿った輝度温度をフーリエ解析した。この波数での寄与関数およそ高度15-35kmに広がっている。 得られたスペクトルには、傾きが低波数側で大きく高波数側で小さいという傾向が見られる。地球で見られた波数依存性に近いものもあるが、特に高波数側ではノイズを考慮しても-5/3乗より緩やかであることが多い。理想的な水平乱流とは相容れず、少なくとも火星では大規模な地形による大振幅の重力波など別の要因も寄与しているかもしれない。 緯度・季節依存性も顕著である。夏・冬期には、冬半球高緯度(60°)でパワーが大きく、次いで冬半球中緯度(30°)でパワーが大きい。この時期高緯度では南北温度傾度が大きく、傾圧波からのカスケードが考えられるが、中緯度では南北温度勾配がかなり小さい時期にあたるためこの傾向は謎である。春・秋期には両半球の高緯度でパワーが大きく、これは南北温度傾度が大きい場所に一致する。それぞれの緯度で特徴的な季節変化があるが、MY25とMY26の間で年による違いも見られた。
|