大気の長期平均場で駆動した高解像度海洋大循環モデルの数値解を解析し、南太平洋表層付近において本研究で注目する、「南太平洋から赤道域への温度躍層内での海水分布」、「冬季の混合層分布」、「南緯20-30度の日付変更線以東に存在する東向流」等がかなり良く再現されていることを確認した。そこで、この数値解を用いて、南太平洋から赤道域へ輸送されている可能性のある南太平洋東部亜熱帯モード水に特に注目し、その海水特性及び分布に関する解析を行なった。この解析から、この水塊の形成域は南緯20-30°西経130-90°付近であり、混合層深の極大域と一致すること、その海域から亜熱帯循環に伴い北西方向へ広がり、モデル中では赤道域付近に達していることが明らかとなった。また、この水塊の分布が南赤道反流の一部の形成に寄与する可能性も示された。このようにこの水塊の重要性が示唆されたため、更にこの水塊の形成過程の解析を進めている。 以上の様な南太平洋の循環に関する直接的な研究に加え、中緯度域から赤道域への遠隔的な影響に関する理想化した状況下での数値実験も行った。そこでは、中緯度混合層の浅化がモード水形成を弱め、中緯度域から熱帯域の温度躍層の成層を強めることが示された。また波動の伝播を通じて亜寒帯循環域の湧昇が赤道域の温度躍層を変化させる可能性が示唆された。これらの結果はJournal of Physical Oceanographyに投稿中である。 このように混合層分布の重要性が示されて来たため、南太平洋に比べ表層付近の観測の多い北太平洋のデータを用いて混合層分布の影響を更に考察した結果、深い混合層は海面水温の変動を弱め、混合層分布は海面水温変動の大規模な分布に強く影響することが明らかとなった。これに関しては熊本大学理学部冨田智彦講師と共同で研究を行い、結果はJournal of Climateに投稿中である。
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