本年度は、中部日本に発達する活断層のうち最終活動時期から長い期間が経過している阿寺断層、跡津川断層について予察的な検討を行った。阿寺断層の野外地質調査では、これまで研究の行われてきた断層露頭から熱水活動履歴を読みとるために、断層岩の産状に関する調査を重点的に行った。熱水活動の影響は変形構造から認定される断層破砕帯より外側にも及んでいる可能性があり、また断層の変位にともなって異なる熱水活動履歴を持つ岩石が断層を境界として接していることがありうるので、従来の断層破砕帯調査よりも広範囲を調査した。採取した試料については、従来行われていたように試料表面の研磨を行った上で変形構造の観察を行うとともに、粉末X線回折分析を実施して変質鉱物組合せを求めた。その結果、サポナイト+束沸石、イライト+方解石、湯河原沸石+方解石の3種類の変質鉱物組合せが存在することが明らかにされた。この違いは変質温度の違いを反映すると考えられる。研磨片を用いた剪断センスの解析からも露頭に見られた断層ガウジ帯は1回で形成された複合面構造とは考えられないことから、複数の断層イベントを記録していると考えられる。また、各試料から岩石薄片の作成を行い、変質鉱物の産状について確認を行ったところ、重複変形の証拠が確認された。なお、適切な鉱物脈試料が得られなかったことから、均質化温度の測定が可能な流体包有物は実施できなかった。跡津川断層については、防災科学技術研究所が掘削したコアを観察し、解析資料の選定を行った。
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