研究概要 |
本研究は、地震が発生から長い年月が経過している活断層を対象として、断層破砕帯の固着過程を地質・鉱物学的手法により検討した。跡津川断層,阿寺断層について調査を実施し、阿寺断層については良好な結果を得たので以下にその結果を述べる。 阿寺断層は最新の地震イベントが1586年天正地震であり、現在までに400年以上の時間が経過している。また文献調査および野外調査に基づいて、天正地震の際に変位を生じた断層破砕帯を特定し、その地点を調査対象とした。 調査対象地点では、基盤岩である花崗岩が堆積層に衝上しており、両者の岩相の境界に断層ガウジが発達する。上盤側の花崗岩には変形構造が発達しており、カタクレーサイト化している。これら3種類の岩相それぞれについて試料採取を行い、研磨片観察、薄片観察、粉末X線回折分析を実施した。研磨片の結果、断層ガウジ帯には淡黄色断層ガウジと茶褐色断層ガウジが認められる。淡黄色断層ガウジは、ブロックとして産出したり小断層により切断され、連続的ではない産状を示す。一方で、茶褐色断層ガウジは直線的、かつ連続的な産状を示し、最新の地震イベントで形成された可能性が高い。薄片観察の結果、淡黄色断層ガウジは細粒化と粘土化が著しく進んでおり、鉱物片がごくわずかにしか観察されない。茶褐色断層ガウジは破砕されているものの、直径0.1〜1cmほどの鉱物片が散在しており、また直径1cmを超える鉱物も認められる。マトリックス中には茶褐色の鉱物が充填している様子が確認された。鉱物名は特定できなかったが、これが断層破砕帯の固着過程で形成した充填鉱物である可能性が考えられる。粉末X線回折分析の結果、断層ガウジから白雲母、イライト、モンモリロナイト、ハロイサイト、珪灰石が検出された。これらのうちいずれかの鉱物が断層破砕帯の充填鉱物であると予想される。
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