研究概要 |
前年度までの成果(ミトコンドリアrDNAによるエゾバイ科の分子系統学的解析)をHayashi(2005)にまとめて報告した.本論文において,エゾバイ科内でいくつかの頑健な単系統群が支持されること,北半球の高緯度地域を分布の中心とするエゾバイ亜科(Buccinum, Neptunea)と主に南半球の属から構成されるモオリバイ亜科の近縁性が示唆され,かつこれらが同科の中で最後に分化してきたグループであることなどが明らかとなった.しかしながら,BuccinulumとCominella(モオリバイ類)の種数が少なくかつ進化速度が遅いため,これら両属の系統学的位置が系統解析上安定せず,同グループ内での具体的な属(群)の分岐順序も未解明な部分が多く残されていた.そこで新たにこれらの属の未解析種をニュージーランドにて採集し,塩基配列を決定,ベイズ法にて系統解析をおこなったところ,エゾバイ亜科とモオリバイ亜科の属種を中心とするグループの単系統性が高い事後確率によって支持された.一方でモオリバイ亜科の単系統性は支持されなかったが,この原因としては,データセットの解像力不足である可能性も考えられる.同グループ内で新たに,((Cominella+(Phos, Nassaria, Burnupena))+Buccinulum)という単系統群が高い統計的信頼性をもって認識された。CominellaとPhosは,ともに主歯の基底がループ状となるため,トクサバイ亜科とされる場合が多い.しかしながら,同じトクサバイタイプの主歯を持つLirabuccinumは,この単系統群には含まれなかった.同様に,歯舌や胃の形態からBuccinulumはPenion(+Kelletia)と近縁とされるが(Ponder, 1971),これらも単系統群をなさなかった(投稿準備中).今後,さらに解析対象の遺伝子を増やすなどして,これらの属群の系統関係の検証をすすめていきたい.
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