研究概要 |
本研究は,過去の水温の季節変化・日較差を復元する手法を開発するために,水温を一定及び変動させた条件で有孔虫を飼育し,そこで成長した試料を用いて殻中のマグネシウム(Mg)含有量の微小分布測定し,石灰化中の水温条件がMgの分布に与える影響を明らかにすることを目的としている. 本年度は有孔虫殻試料を電子線プローブ微量分析計(EPMA)で測定する場合の測定条件の最適化を行った.また,最適化した測定条件下で,飼育実験で成長した有孔虫試料の元素組成を測定し,元素の平面分布を明らかにした.水温や塩分などの成長条件が既知の飼育試料を測定することで,成長環境と殻の元素組成を直接比較することができる利点がある. 本年度は,実験室内で水温を10.4℃,14.7℃,23.1℃の3条件設定し,そこで成長した有孔虫試料のMgとCaをEPMAを用いて定量し,これらの元素の殻壁中の微小分布を明らかにした.その結果,水温が高いほど有孔虫殻のMg/Caの平均値が高い値を示し,両者間には一次式で近似できる相関関係が観察された.また,成長段階の途中で,高い水温の条件から低い水温に変えて飼育した個体を測定した結果,殻のMg/Caが成長に伴って高い値から低い値に変化していることが観察された.また,測定されたMg/Caの値を先に得られた一次式に代入して得られる値は,実際に飼育した水温に近い値を示した.以上のことから,有孔虫殻のMg/Caを成長段階に沿って連続的に細かく測定することで,有孔虫の個体が経験した水温の履歴が復元できる可能性が示された.以上の結果は,2004年9月にフランスで行われた国際古海洋学会議で発表し,専門研究者達と議論した.その議論をふまえて現在国際誌に投稿中である,引き続き,日較差復元の可能性を探る予定である.
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