本年度は、以下の二つの点について研究を行った。一つは、小惑星ベスタの地殻の破片であると考えられるユークライトの熱史に関するもの、もう一つは、月の裏側高地を起源とする月隕石Y86032の熱史と衝撃史に関するものである。 玄武岩質ユークライトは、ソリダス近傍で短期間加熱を受けるとインコンパチブル元素に富む相(主にリン酸塩鉱物やイルメナイト)を含むメソスタシスの部分が優先的に熔融することを実験的に明らかにした。また、衝撃により生じた割れ目が存在すると、鉱物中に熔融物が割れ目にそって、容易に移動することを明らかにした。この事実は、超高温変成作用を受けたユークライトの岩石組織、そして、輝石や斜長石に含まれる微量元素が再分配しているという事実と調和的である。これがSm-Nd年代などの放射年代の攪乱の原因になったと考えられ、小惑星ベスタの地殻の形成史や年代史の解釈に大きな影響を与える。 月の高地起源の角礫岩Y86032隕石の大きなスラブから数枚の薄片を作製し、岩石学的研究を詳細に行った。この隕石は、数回の衝撃角礫化と混合、および、衝撃熔融を経験している複雑な角礫岩であることがわかった。これは、月の裏側高地の激しい衝突現象を反映していると考えられる。また、この角礫岩の中に、溶岩流の破片と思われる岩石片や鉄に富む輝石の鉱物片が多数見つかった。この破片は、月の裏側の火山活動により形成されたのかもしれない。このほかにも、Y86032には、様々な岩石片が含まれており、現在、この角礫岩に含まれる岩石片の起源を明らかにしようとしている。
|