伊豆小笠原地域の島弧火山におけるマグマの地殻内移動プロセスを解明するために、調査航海により八丈島近傍の海底火山列から採取された火山岩について、系統的な化学組成分析およびAr/Ar法による年代測定を実施した。さらに八丈島で行った陸上調査により採取した岩石試料約120試料について化学組成分析を行った。これにより八丈島西山火山およびそこから派生する海底火山列のマグマシステムの特徴が明らかになってきた。具体的には、 a)今年度実施した八丈島北西火山列における潜航調査で、火山列の噴出物は極めて新鮮で、堆積物の被覆もないことから極めて最近噴出したことが明らかになり、火山活動時期が八丈島西山火山と活動時期が重なっている。 b)八丈島北西火山列の玄武岩質溶岩は、西山火山の溶岩に比べて未分化な特徴を持つ。火山列内の化学組成変化は同様のマグマの結晶分化で概ね説明できる。 c)一方、北東側の側火口は西山火山のマグマと類似していることから、西山火山と同じ浅所のマグマだまりから由来したマグマが活動したと考えても無理がない。 d)微量成分の特徴等から、八丈西山火山と北西火山列のマグマ起源物質は同様であったが、本源マグマの特徴は異なると考えられる。 以上の特徴から、現在のところ八丈島北西火山列のマグマについては、西山火山のマグマだまりより深い部分で分離し、地殻内を北西方に移動して噴出した可能性が考えられる。分化の程度が小さいことから、大きなマグマだまりは形成せずに噴出し、小規模な火山体を形成してきたと考えられる。群発地震の震源が10-20kmから始まっていたことを考えると、マグマの移動が起きたのがこのあたりの深度で、西山火山直下のマグマだまりはこれより浅い数kmに存在している可能性がある。 この成果は、2005年4月1日に提出したIODP(深海掘削計画)に対する伊豆小笠原弧での掘削提案にも盛り込まれている。
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