本年度は3年の研究期間の初年度として、まず本研究で用いるモデル生物である硫酸還元バクテリアDesulfovibrio vulgaris株の安定した培養法を確立した。また通常の培養法では硫化鉄の沈殿が顕著で、化学的条件を厳密に制御した実験の妨げとなる恐れがあるため、硫化鉄を沈殿しない培養法を検討した。様々な試みを行った結果、培地にクエン酸塩を加え、且つ培地中の二価鉄の量を最小限にする事により硫化鉄の沈殿を妨げられる事が判明した。これらの予備実験により、硫化鉄の沈殿なしで安定的にD.vulgaris株を培養する事が可能になった。 硫化鉄鉱物は様々な化学組成と結晶構造を有し、大気中では酸化しやすく、且つ透過型電子顕微鏡で用いる電子線の照射により変質しやすいため、正しく結晶相を同定するのが極めて難しいと考えられている。本研究で目的とするナノスケールの硫化鉄鉱物の解析はさらに難易度を増す。その為、ナノスケールの硫化鉄鉱物の同定法及び物理化学的特性の評価法の確立を試みた。X線回折法、電子線回折法及び高分解能結晶像解析と、硫化鉄鉱物の磁性を測定する方法を組み合わせる事により、正確にナノスケールの硫化鉄鉱物の同定及び物理化学的特性の一部を評価できる事が明らかになり解析手法を確立した。 現在D.vulgaris細胞全体を用い、従来の硫酸還元により生成した硫化鉄と元素状硫黄の還元により生成した硫化鉄を解析中で、磁性鉱物のグレイジャイトを最も多量に生成する条件のスクリーニングを行っている。
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