酵素の未精製画分を用いたナノ結晶生成実験及び酵素精製の確立に向けた予備実験を行った。初年度、硫化鉄および酸化鉄のナノ結晶の解析法を確立し、嫌気性微生物のDesulfovibrio vulgarisが無機的な反応で生成する結晶と比較して、粒径が大きく均一で結晶形態の異なる硫化鉄ナノ粒子を生成する事が明らかにした。本年度はまず、D.vulgaris細胞を可溶と不溶画分に分け、細胞中のどの成分が硫化鉄の結晶形態の制御に関与するか調べた。その結果、どちらの画分を用いて実験した場合も細胞全体と同様の結晶は形成されなかった。このことから、不溶画分中の電子伝達酵素が還元反応により結晶の飽和度を高める作用、およびグラム陰性細胞特有の細胞膜構造中の結晶の核形成と結晶成長を制御する作用の両方が必要であると推察された。酵素の精製は三価鉄及び元素状硫黄を還元するチトクロムc3について、不溶画分から液体クロマトグラフィー法を用い精製に成功した。さらに、in vitroでの活性も分光法を用いて確認する事ができた。しかし、水素を酸化するヒドロゲナーゼは酸素に触れた影響か精製後のin vitroでの活性を確認できなかった。嫌気的条件下でヒドロゲナーゼを精製する必要性があると判断されるが、研究設備が不十分であるため、ヒドロゲナーゼの精製は断念する。最終年度は精製したチトクロムc3を用いたナノ結晶生成実験を行い、研究成果を取りまとめる。
|