これまでの代表者による観測的研究から、形成直後の北太平洋中央モード水は周囲の水との混合の影響をほとんど受けていないにもかかわらず、大気に対してクロロフルオロカーポン類が未飽和状態に有り、しかもその未飽和の度合いは年々変動しうるものであることが見出された。その変動の要因を調べるために、新たに「混合層移流-拡散モデル」に、モード水の沈み込み速度を考慮した。その結果、観測結果とよく一致し、冬季の表層混合層ではクロロフルオロカーボン類は大気に対して未飽和にあり、また春季、夏季にはむしろ過飽和にあるというこの海域の表層混合層のクロロフルオロカーボン類の大気に対する飽和度の季節変動を再現することが出来た。 北太平洋域で形成される他のモード水についてのモード水形成時の大気クロロフルオロカーボン類に対する飽和度を調べるため、利用可能な過去データに我々の観測結果を加えて、北太平洋域のクロロフルオロカーボン類データセットを作成した。その解析を進めた結果、北太平洋亜熱帯モード水及び東部北太平洋亜熱帯モード水では、北太平洋中央モード水に見られたような大気に対する未飽和事象を見出すことはできなかった。しかし、北太平洋移行領域内に見られる北太平洋中央モード水よりも重く冷たいこれまでモード水と認識されていなかったが低渦位というモード水の特性を確かに持つ水塊については、中央モード水より大きな不飽和度が存在することがわかった。
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