研究概要 |
1.現有の磁場コイル(3kG)と真空容器(内直径16cm,長さ200cm)を利用し,温度を600℃程度にまで加熱することのできる銅円筒(内直径8cm,長さ30cm)が真空容器内部に設置されている.この円筒内部にドーナッツ状電子銃が,側壁にナノサイズ分子であるフラーレンC_<60>を昇華させるためのオーブンが設置されている.電子ビームエネルギーは0〜150eVの範囲で,フラーレン導入量はオーブン温度調節(0〜700℃)によって制御できる.高エネルギー電子衝突電離によって正イオン(C_<60>^+)が生成され,低エネルギー電子付着によって負イオン(C_<60>^-)が生成される.この正負イオンから成るペアフラーレンイオンプラズマが生成されていることを,プローブ計測によって確認した. 2.フラーレン分子が2個結合したダイマーは,炭素系素材として応用上期待されている.触媒を用いた化学的多段階反応法,局所電界印加法,光重合法でもダイマーは形成される.しかし,不安定構造ダイマーであったり,大量合成には向かない手法である.ここでペアフラーレンイオンプラズマを利用して,ダイマー生成を試みた.生成された負イオンを電位差(0〜200V)をつけた2枚のグリッド間で積極的に静電加速させて,下流域に存在する中性フラーレン分子や正イオンと衝突させた.グリッド電位差をコントロールパラメータとして,負イオンビームエネルギーを変化させてダイマー生成を行った. 3.衝突処理したフラーレンサンプルをLD-TOF MSによって質量分析を行ったところ,質量数1452を持つ物質が確認された.これはC_<121>に相当する質量であり,フラグメンテーションC_2から供給されたCと,C_<60>が2個から成るダイマーであると考えている. 4.ダイマーが生成される負イオンビームエネルギーは60〜180eVの範囲であることが分かった.質量スペクトルにおいて,C_<60>の存在量に対するダイマーの存在量の比(生成比)は,最大で10%に達した.従来ペアフラーレンイオンプラズマを生成させたのみでもダイマーは生成されていたが,その生成比はせいぜい数%程度であった.すなわち,積極的な負イオン加速・衝突によって,ダイマー生成量を5倍程度向上させることに成功した.
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