準安定気体状態にある極性流体中でのイオン誘起核生成を、ギンツブルグ-ランダウ理論に基づいて解析し、イオンを核とした臨界液滴の密度構造や核生成エネルギーを計算した。イオン周囲における誘電率の空間的不均一性を取り入れた。 水銀の気体-液体相転移を微視的な化学結合論に立脚して解明するため、水銀クラスターの安定構造や凝集エネルギーを計算する理論を構築した。用いた方法論は「分子中二原子分子法」とよばれ、二原子分子の基底・励起状態のポテンシャル曲線を基にして、多原子系のポテンシャルエネルギー面を構築する量子化学計算法の一種である。クラスターを構成する各原子におけるスピン-軌道相互作用や、基底状態と励起状態の間の配置間相互作用を考慮した。この方法を三原子クラスターに適用し、直線形状をもつAOu励起状態(3.18eV)から基底状態への垂直遷移に対応する波長が487nmとなることを見出した。これは、光励起水銀気体に観測されている、485nmを中心とした青緑色の連続発光スペクトルの有力な起源と考えられる。同様に、217nmを中心とする蛍光バンドなど紫外領域での発光起源を明らかにするため、5.7eVまでの励起準位に対するポテンシャル曲線を網羅的に計算し、基底状態への双極遷移が許容されている準位および対応する遷移波長をすべて求めた。この手法をさらに拡張して、原子数3から7のクラスターにおいて、基底状態が最密安定構造をもつことや、束縛エネルギーが6s-6p状態間の混成によって増大する効果を見出した。後者は、流体水銀中の原子間相互作用が多体的であることを意味する。また、最低励起状態が基底状態に比べてコンパクトな構造をもち、そのエネルギー準位が原子数増加とともに減少して基底エネルギーに近づくことを見出した。
|