研究概要 |
金属材料のプラズマ窒化処理において問題となっている,10数時間におよぶ長い処理時間や硬いが脆い化合物層が形成される問題を解明するために,材料との反応性の高いN原子を従来のプラズマ源より非常に効率よく解離させることが可能である「電子ビーム励起プラズマ(EBEP)」源を用いて,N原子密度(N_2の解離度)をパラメータとした窒化プロセスに関する実験的研究を行った。 電子衝突による解離過程において生成されるN原子は電子ビーム電流値に比例するため,はじめにその制御領域を拡大することを目的として現有の小型EBEP源の高出力化を行った。具体的には,電子ビーム加速領域を3分割して並列に設置し,さらに加速電極としての多孔電極の開孔率を増大することにより,電子ビームの引き出し効率をこれまでの2割程度から最大6割まで向上させることに成功した。これにより生成される電子ビーム電流値の大幅な増大とその制御領域の拡大が達成された。 つぎに,プラズマ中で試料表面全体を一定の設定温度で均一に保持可能なヒーター付き基板ホルダーを製作し,改良した小型EBEP源を用いて窒化鋼SCM435の窒化実験を行った。その結果,従来法と同じ処理時間において従来法よりも高い表面硬さを得ること,即ち窒化処理の高効率化に成功した。また,処理ガスの条件としてN_2に対するArの混合比を変えて実験を行った結果,Ar混合比が16%の時,拡散層は浅いものの材料表面に化合物層が生成されない処理に成功した。しかし,それ以上の混合比では化合物層が形成されることがわかった。このときのプラズマ中のN_2の解離度を四重極質量分析計を用いて見積もった結果,解離度はAr混合比が16%のとき10%程度で,Ar混合比の増加とともに増大し最大20%に達することが確認された。以上の結果は,化合物層が形成されないためのN原子密度の上限が存在することを示唆している。
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