研究概要 |
金属材料のプラズマ窒化処理における諸問題(長い処理時間,硬く脆い化合物層の形成等)を解明するために,材料との反応性の高いN原子を効率よく生成することが可能な「電子ビーム励起プラズマ(EBEP)」源を用いて,N_2の解離度をパラメータとした窒化プロセスに関する実験的研究を行った。昨年度までに,生成される電子ビーム電流値及びその制御領域の拡大のため,電子銃部の構造の改良を行うとともに,実際に鉄鋼試料の処理を行い,従来法と同じ処理時間において従来法よりも高い表面硬さを得ること,即ち窒化処理の高効率化に成功している。そこで本年度は,本装置を用いた高速窒化処理における窒素原子の振る舞いをより詳細に調べる最初の段階として,処理条件下における窒素原子密度の定量計測法の開発研究を行った。ここで,その基礎となる技術として,窒化処理への実用化を視野にいれ,より簡便でプラズマに影響を与えない「発光分光法」を用いた。 窒化処理条件下における発光分光測定の結果、従来のプラズマ源では検出が困難とされていた,可視領域(300〜550nm)における励起窒素原子の4本の発光スペクトルを複数同時に検出することに成功した。通常,発光分光法より得られる発光強度は相対値であるため,その励起種の絶対密度を見積もるためには,その強度を絶対値へ校正する方法を考案する必要がある。そこで本研究では,同可視光領域にて検出される窒素イオンの遷移N_2^+(B,2→X,2)が,放射を通してのみ起こることに着目し,それを生成する電子ビームのエネルギーを制御することにより,対応する生成断面積から絶対強度を見積もる校正方法を考案し,検出された励起窒素原子の絶対密度を求めることに成功した。 この方法は,窒素原子の発光を観測するだけで即座にその絶対密度を知ることができるため,窒化処理中の窒素原子密度を保証するモニタリング法として,幅広い窒化プロセスへの適用が期待される。
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