本年度でフーリエ変換型マイクロ波分光装置とミリ波帯のGunn発振器を組み合わせた新しい2重共鳴分光装置の開発を行った。本装置を用いて化学的に興味あるいくつかの短寿命分子種の分光研究をおこなった。以下に代表的なものを記す。 1.クロム金属原子とハロゲン原子からなるCrF及びCrClのマイクロ波分光を行った。遷移金属原子を含むラジカル分子は、電子状態が近接して存在するため、それらの間で強い相互作用が存在し、特殊な化学結合を形成してると考えられる興味深い系であるが、分光研究はこれまでほとんど行われていなかった。本研究ではCrF及びCrClについて回転スペクトル中に現れる超微細構造を観測し、近接する電子状態間で強い相互作用が存存し、基底電子状態においても他の状態との混合が起こっていることを実験的に初めて明らかにした。 2.成層圏におけるオゾン分子破壊の原因となるCl原子の供給源としてその存在が注目されてきた過酸化ラジカル、Cl00の分光研究をおこなった。新しい2重共鳴分光装置を用いることで、多くの回転遷移を観測し、より詳細な分子定数を決定することができた。これらをもとに、はじめて分子構造を決定した。さちにCl-00間の結合が通常の化学結合よりも極めて弱い事を明らかにし、この分子がCl原子の供給源としての重要性な役割をはたしうることを実験的にも証明した。
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