第一原理分子動力学計算によって、プロトンの移動がゆっくりとした骨格分子の運動と強くカップルしていることが分かっているトロポロン誘導体における分子内プロトン移動、及び、ギ酸二量体における分子間ダブルプロトン移動を具体的研究対象とし、その量子効果を量子・半古典理論を駆使して明らかにするのが最終的な目標である。本年度は、研究期間の初年度なので、特に方法論の確立に多くの時間を費やした。 トロポロン誘導体のような、多くの自由度が関与しているプロトン移動反応における量子現象を理解するには、多次元の量子計算を行なわざるを得ない。しかしながら、一般的に用いられているグリッド法に基づく量子波束計算では、現在のところ4原子以上の計算を行なうのは技術的に不可能である。そこで、我々は、量子化学計算で用いられている、波動関数を基底関数で展開する方法を核の運動に応用し、"多少精度は犠牲にしても多自由度問題へアプローチしたい"という考えのもと研究をスタートさせた。また、半古典理論によるアプローチに関しては、すでに独自に多次元の量子トンネル現象をも扱うことのできる半古典理論を開発しており、3原子衝突問題等の比較的少数自由度の系に応用し、多次元トンネルならでは現象を明らかにしてきている。こうした半古典計算を大自由度系へ応用し、6自由度系の半古典スペクトルを得ることに成功した。また、こうした半古典計算を通して、半古典量子化のメカニズムの新しい側面を発見した。 上述のように、量子計算と半古典計算を同時に行い、その結果を比較しながら方法論の確立を進めてきた。本年度の研究を通して、量子現象の理解を深めることができた。
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