量子化学計算において、1電子近似に基づいたHartree-Fock法から得られる全エネルギーと真のエネルギーの差である電子相関を定量的に見積もることは非常に重要な問題である。しかし、この電子相関は最低でも分子サイズの5乗以上に依存して計算コストが増大するために、大規模な分子系ではこれを見積ることは非常に困難である。近年、局在化軌道を用いた電子状態理論が動電子相関を低コストで効率的に取り込むことができるため、興味が持たれている。本研究では局在化軌道を用いたMoller-Plesset 2次摂動法(Local MP2法)とその並列化プログラムの開発を行った。電子相関を見積もる際に、電子相関の局所性を利用してoccupied軌道から近接するvirtual軌道にのみ電子を励起させる。occupied軌道から2.0Å離れたvirtual軌道までを含めた結果、タキソールで10%程度のvirtual軌道を用いるだけで電子相関の約98%を見積もり、計算時間は通常のcanonical MP2法の10分の1以下となり、非常に効率よく電子相関を取り込むことができた。その他の分子に対しても、通常のcanonical MP2法の98〜99%の電子相関を見積もることが明らかになった。また、本研究で開発されたプログラムは完全に並列化されており、2000基底を含む分子系まで適用が可能である。また、様々なベンゼン二量体に対してLocal MP2計算を行い、通常のMP2法と比較することにより、分子間力の見積りに関しても有効であることが明らかになった。しかし、二量体の構造が大きく変化した時に、重要な仮想軌道の組が大きき変化する可能性があり、ポテンシャル面全体の記述には問題があることも明らかになった。
|