今年度は、二酸化炭素クラスター負イオンへの水分子の吸着構造を明らかにする事を目的として実験を行った。これまでの研究では、二酸化炭素クラスター負イオンにおける水分子は、クラスター内部ではなく表面に吸着しているのではないかと考えられてきた。そこで、この二酸化炭素-水混合クラスター負イオンに赤外光解離分光法を適用し、その構造決定を試みた。実験は、タンデム型質量分析計と、Nd : YAGレーザー励起の光パラメトリック発振を用いて行った。光解離スペクトルの測定範囲は3000-3700cm^<-1>である。また、この様にして得られた光解離スペクトルを解析する目的で、ab initio分子軌道法による安定構造、振動数計算、垂直電子脱離エネルギーの計算を行った。この実験と計算の結果を比較することにより、二酸化炭素-水混合クラスター負イオン[(CO_2)_n(H_2O)_m]^-の構造を明らかとした。 まずm=1について、n=2、3では、3500-3650cm^<-1>の領域に吸収バンドを観測した。これらのバンドは、CO_2^-負イオンと水1分子で形成された環状構造に由来するものであることが分子軌道計算により明らかとなった。n=4では、n=2、3のバンド位置から約40cm^<-1>低波数にバンドを観測した。やはり分子軌道計算の結果から、n=4のこのバンドを、ダイマーイオンコアC_2O_4^-に溶媒和し環状構造を形成した水分子の振動準位であることが明らかとなった。 m=2についても同様の実験、計算を行い、その構造を決定した。n=1ではCO_2^-イオンコアに対し1分子は環状構造を形成し、もう1分子はその環状構造に対して溶媒和する構造をとる。n=2についてもこの構造を取るが、n=3になると今度はCO_2^-イオンコアと水2分子で環状構造を形成することが明らかとなった。 以上の結果については、J.Chem.Phys.の122巻にて報告を行った。またこれに加え、その他の無機クラスターイオン中での水分子の吸着状態についても同様の研究を行い、学術雑誌にて発表した。
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