同位体とは同じ原子番号をもちながら質量数が異なる原子のことであるが、物質を構成する元素の同位体比を変化させることにより、物性を制御した材料を作ることができる。同位体比率を制御した材料を製作するためには、様々な元素について適応可能な同位体分離法を開発する必要がある。そこで本研究では新たな同位体分離法の開発を目的として「固体表面を利用したレーザー法による同位体分離」の可能性を追究する。この方法では固体基板上に試料原子を吸着し、特定の同位体の電子準位または振動準位をレーザー光により励起し、その同位体のみを基板から脱離させ同位体分離を行うことを考えている。本年度までに、報告者は実験を行うために必要な真空装置の組立ておよびレーザー系のセットアップを済ませ、アセチレンを用いて予備的な実験を行うことができた。以下にその詳細を説明する。 本研究では、基板表面の観測を行うための反射高速電子線回折(RHEED)装置、同位体分離をする試料を基板上に吸着させるための試料導入装置および基板上に吸着した試料を分析するための昇温脱離装置を備えた真空チェンバーを製作した。次に、固体表面実験をする上で重要な、製作した装置での到達真空度を調べ、高真空状態になっていることを確認した。また、シリコン基板加熱による表面の清浄化およびRHEEDによる表面観察を行い、基板加熱により単結晶に特徴的な回折像が得られることを確認した。さらに室温でシリコン基板上にアセチレンを吸着させ、基板温度を上昇させた時に脱離するアセチレンの量 を四重極質量分析装置により測定し、昇温脱離スペクトルを得ることに成功した。以上のことを確認した上で、現在、色素レーザーの光を非線形結晶に導入することにより紫外光を発生させ、その光を用いてシリコン基板上に吸着したアセチレンの光脱離を試している。紫外光による光脱離に成功したら重水素置換したアセチレンを用いて同様の実験を行い、光脱離効率のレーザー波長依存性を測定して、同位体間で差があるかどうか調べる予定である。
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