内包フラーレンは、フラーレンの内部空間に金属原子やヘテロ原子等を包接した非常に興味深い構造の分子である。金属内包フラーレン類はフラーレンケージと内包金属の間での電子移動に由来する特異な電子構造を有し、内包する金属の種類や数によって常磁性分子あるいは反磁性分子となる。金属内包フラーレンのプロトタイプであるLa@C_<82>は、電子移動によりLa(3+)C_<82>(3-)の電子構造を有しており、C_<82>炭素ケージ上にスピンを持つ常磁性分子である。有機化合物による磁性体材料は、加工の容易さや軽量化し得る等の利点があり、磁気メモリーやナノデバイスへの応用が期待されている。 平成16年度の研究では、常磁性金属内包フラーレンであるLa@C82の大量合成を行い、イオン化による金属内包フラーレン抽出とHPLCによる精製を行った。高選択分子変換法の開発を目的として、La@C_<82>とカルベンの付加反応を検討したところ、高収率で位置選択的に付加反応が進行することを見いだした。この反応は現在報告されている金属内包フラーレンの分子変換の研究と比較して、著しく優れた位置選択性を有する化学反応である。また、付加体のX線結晶構造解析に世界に先駆けて成功し、初めて常磁性金属内包フラーレン誘導体の構造を明らかにした。理論計算による検討を行い、選択的付加反応が進行する要因が、フラーレン表面の曲率と電子密度に起因することを見いだした。金属内包フラーレン誘導体の電気化学測定を行い、分子変換後においても金属内包フラーレンの特異な酸化還元特性が保持されることを明らかにした。
|