研究概要 |
有機エレクトロニクス材料を指向した新たなπ電子系化合物の分子設計において重要となるのが,π電子系の「分子間の配向制御」と「電子構造制御」の2点である.本研究では,このうち「分子間の配向の制御」に焦点をあて,ホウ素と窒素からなる6員環のボラジンを鍵構造として用いた新規π共役系の構築について検討した.本年度は,そのモデル化合物として,三つのアントラセン骨格と三つのベンゼン骨格をボラジンへの共有結合により交互に集積化したトリアントリルボラジンについて検討した. アニリン誘導体とBCI_3を反応させ,続いてアントリルリチウムを反応させるというone pot法により,一連のトリアントリルボラジン誘導体を合成した. X線結晶構造解析の結果,トリアントリルボラジン誘導体は,三つのアントリル基および三つのフェニル基がボラジン平面に対してほぼ垂直に固定化されたギア型の構造をもつことが確認された.このような構造を反映して,特にフェニル基のパラ位の置換基が比較的小さい場合では,分子間のアントリル基間のπ-スタッキングによりシート状に広がった2次元ネットワークを形成することがわかった. また,光・電気化学特性に及ぼすπ共役骨格の集積化の効果を検証するために,トリアントリルボラジンの蛍光スペクトルおよびサイクリックボルタメトリー(CV)を測定し,それらのデータをアントラセンのデータと比較した.蛍光スペクトルにおいて,トリアントリルボラジンの発光極大波長はアントラセンに比べて長波長シフトし,量子収率が2倍以上も向上することがわかった.また,CV測定の結果,フェニル基のパラ位に電子供与基をもつトリアントリルボラジンでは,アントラセンよりも低い電位に酸化波を示し,一方で,電子求引基をもつものでは,アントラセンよりも高い電位に酸化波を示した.これは,ベンゼン環上の置換基によりアントラセン骨格の電子構造を修飾できることを示している.
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