研究概要 |
本年度は、高周期15族元素間二重結合化合物に注目し、それらのπ電子の性質解明やそれらをπ電子共役系に組込んだ新規化合物の合成・単離について検討した。まずは高周期15族元素間二重結合化合物の電気化学的挙動の解明を行った。立体保護基として、2,6-[CH-(SiMe_3)_2]_2-4[C(SiMe_3)_3]-C_6H_2(Bbt)基を用い、ジホスフェン(BbtP=PBbt;1b)・ジスチベン(BbtSb=SbBbt;1b)およびジビスムテン(BbtBi=BiBbt;1b)ついてCV測定を行った結果、それぞれについて可逆な一電子還元波が観測され、その還元電位[E_<1/2>(vs Ag/Ag^+)」はそれぞれ-1.84,-1.65および-1.79Vであった。すなわち、これらの系の中では2bが一番還元されやすい、と結論出来る。一方、種々の置換基を有する一連の高周期15族元素間二重結合化合物(RE=ER, R=H,Me,Ph,Mes,E=P,As,Sb,Bi)に関して理論計算を行った結果、RE=ERの系では置換基によらずE=Sbの系が最も電子親和力が大きく、またLUMOレベルも最も低いということが判った。すなわち、理論計算からも、Sb=Sbの系が最も還元されやすいことが判り、CV測定の結果が支持された。 これらの酸化還元挙動の知見を活かし、新規な酸化還元系の構築を目的として、高周期15族元素間二重結合に、フェロセニル(Fc)ユニットの導入を検討した。その結果、2,4,6-[CH(SiMe_3)_2]_3-C_6H_2(Tbt)基を有する初めての安定なフェロセニルジホスフェンTbtp=PFcを合成・単離することに成功し、この分子構造や反応性を解明した。特に、紫外可視吸収スペクトルにおいて、フェロセニル基のFe部位とP=P二重結合部位のMLCTに相当するバンドが観測されたことは興味深い知見である。
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