申請者はこれまでの研究でアリールエステルの脱炭酸反応に関連して、フリース転位位置を保護することで高効率でおこることを明らかとした。また最近、キラルなエステルを用いた検討で反応が100%eeで進行することから、この反応が環状遷移状態を経る協奏的な機構である明らかとした。これまで1種類のエステルに関して上記の検討を行ってきたが、その一般性の検討は進んでいなかった。即ち光照射下で効率的に脱炭酸を引き起こし、対応するアルキルベンゼンを100%eeで生成するということが一般的か否かを明らかとする目的で本年度においては(1)一般性を確認した。即ち、他のアリールエステルにおいても同様に脱炭酸反応が立体選択的に起きうることを検討した。(2)反応が協奏的で環状遷移状態を経由すると考えられるので、環状のコンフォメーション(s-cis型)がどのようにして生じるかクラスター計算機によるDFT計算および蛍光スペクトルにより検討した。即ちこのようなコンフォマーが、基底状態で生じることが反応に必要なのか、励起状態で始めて形成されるのか、あるいは両者が関与するのかという点を明らかとするために、様々なコンフォメーションのエネルギー計算、並びに(種々の反応条件下での)蛍光スペクトル測定を行った。その結果、基底状態、励起状態いずれにおいても、s-cis型のコンフォマーが重要な役割を担っていることが明らかとなった。(3)さらにこのようなコンフォマーに関してポリエチレンフィルム、ゼオライト、シクロデキストリンなどを反応場として用い、脱炭酸反応の包括的なメカニズム解析と反応制御を試みた。その結果PEフィルムを用いることでs-cis型のコンフォマーを優先的に生じさせることができ、反応制御が効果的に行えることが明らかとなった。また、環状のラクトンや高圧下での検討をあわせて、詳細に検討し、J.Am.Chem.Soc.誌などに公表した。
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