研究課題
申請者はこれまで、キラルな化合物をプローブ分子として用いることで、これまで解析が不可能であった光反応などの反応機構の解明に取り組んできた。本年度は、そのような研究の流れの中で、もっと基礎的な基底状態でのキラリティに関する情報、即ち円二色性が、これまで考えられていた以上に複雑で、これまでの経験則が必ずしも成立しない、ということを見出したのでより詳細に検討することとした。弱い相互作用の中でも電荷移動相互作用は、主に可視光領域に新しい吸収体が生じるため、検討に適していると考えられる。そのようなモデル化合物の一例として、電荷移動相互作用を有するシクロファン(CTシクロファン)を合成し、その光学分割を行い、そのキロプティカル特性に関して、旋光度、並びに、ECD、VCDスペクトルによる解析を行った。その結果、今まで用いられてきた経験的な絶対配置の決定法である励起子キラリティ法が、このような相互作用を有するシクロファンには適応できないことが明らかとなった。また、代わりに、CT吸収体のコットン効果の符号が絶対配置に対応していることも見出した。これらの結果は、これまでの絶対配置決定法に警鐘をもたらす意味もあることから、J.Am.Chem.Soc.誌に速報として掲載された。また、このような結果を踏まえて、より自由度の高い、CT-dyadの系に関しても円二色性による検討を行い、その結果の一部をAngew.Chem.Int.Ed.誌に報告した。さらに、本年度後半、申請者はドイツ、アレクサンダーフォンフンボルト奨学金の助けもあり、先のような結果の考察をする目的で、ミュンスター大学、Stefan Grimme教授の下に赴き、主にTD-DFT計算による理論化学的な解析を行った。その結果、CTシクロファンの円二色性に関する新しい解釈法が得られたので、来年度はこのことに関してもより詳細に検討する予定である。
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