FDCD(Fluorescence Detected Circular Dichroism)は化合物の立体情報を追跡する方法の一つとして、非常に高感度で選択的だと言われている。しかし最初の報告から25年以上たっても、測定装置が不完全であったため、応用研究がほとんどないばかりか、土台となる基礎事項も理論的に予測されはいるが実験的には完成されていない。測定装置の問題は、FDCDの観測媒体が蛍光であることに起因する。従来の装置では試料の蛍光が偏光を示す場合、にせ信号の影響を受けて解析不能の結果を与えるか、それを回避するために観測感度を犠牲にする必要があり、FDCDはその特徴を失っていた。そこで本研究では、原理的に偏光を回避できる楕円鏡構造を、再生産性の高い単純な部品の組合せで初めて実現し、偏光を解消しつつ感度を従来モデルに比べて20倍程度も向上させる新型FDCD測定装置を、日本分光との共同で実用化して報告(Applied Spectroscopy)した。この新型FDCD測定装置は測定環境をほとんど限定しないユニバーサルな構造も特徴で、通常のCD測定装置の試料室にそのまま装着するだけで最高性能が得られる。性能試験の後、この新型FDCD測定装置をいくつかのCD励起子カップリング化合物に適用した。その結果、これまで解釈不能のスペクトルを与えていた試料が明確なFDCD曲線を示し、理論的に予測されていたphotoselectionの存在も明らかになり、さらにはエネルギー移動の影響が示唆される結果も得られ報告(Monatshefte fur Chemie)した。エネルギー移動の影響の実験的扱いについては現在、FDCD曲線から予測されるCD曲線を経験則で推定することに成功して(未発表)いる。
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