本研究で注目しているFDCDでは、従来の装置による測定で"にせ信号"を伴う試料があったことから、CDの検出がどの程度高感度になり選択的になるかはっきりしないなど、基礎研究も半ばであった。最終年度となる本年度は、申請者らが開発した"にせ信号"のない装置によるFDCD測定をいくつかの実験系に適用し、それぞれ以下に示す結果および展望を得た。 (1)重要な発色団を系統的に含む励起子キラリティー全モデル化合物56種をすべて合成した。それらの各種スペクトル(CD/FDCD/UV/蛍光)を測定したところ、FDCDがCDと一致しない化合物があった(未発表)ので、すべての例を統一的に説明する経験則の構築を、量子化学計算による裏付けも含めて検討している。 (2)多重出力型応答系化合物に適用することで、FDCDが新しい応答チャンネルとして機能することが分かった(投稿準備中)。現在、条件によって蛍光強度が異なる系ではFDCDは可視/不可視となることから、FDCDを出力とする分子ON/OFFスイッチを検討している。 (3)オリゴ糖の簡便かつ系統的な糖鎖解析法への展開として、吸収波長や蛍光強度などの性質が互いに異なる発色団をそれぞれ異なる単糖に導入して、CDとFDCDを測定した。これにより、たとえ試料が糖の混合物であってもCDとFDCDの違いから含まれる糖骨格を区別できることが分かった(未発表)ので、現在はさらに複雑な糖の解析を目指して、2糖あるいは3糖からなるオリゴ糖のモデル化合物を合成している。 以上のように新しいFDCDは"にせ信号"発生の心配がなく、信号の有無が重要な系あるいは構造既知の化合物への適用には充分に実用的であるが、弱いCDの系で絶対配置を決定するには、理論的な裏付けなどさらなる検討が必要と考えられる。
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