サリチリデンアニリンやニトロベンジルピリジン類に見られるように、光誘起プロトン移動を示す有機色素にはフォトクロミック化合物となるものがある。しかしながら、これらのフォトクロミック有機結晶は生成する光着色体が熱的に安定でなく、元の化学種への逆反応が進行するのが一般的である。本研究課題において研究代表者は昨年、2-ニトロベンジリデンアミノピラゾール類の結晶が太陽光のもとで容易に着色し、しかも生成した光着色体は非常に安定で退色しないことを報告した。この化合物の場合、分子内水素引き抜き反応が不可逆的に進行して2-ニトロソベンズアミドを与えてしまうため、色調変化の可逆性が失われる結果に終わっていた。そこで今年度はより優れた結晶フォトクロミック系を見出すべく、ヘテロ環を有するニトロベンジリデンシッフ塩基類を広範に検討したところ、アミノインダゾール類の2-ニトロベンジリデンシッフ塩基類が結晶状態でフォトクロミックな挙動を示すことを初めて見いだした。アミノピラゾール系光生成物は元の化学種への逆反応が全く進行しないのに対し、アミノインダゾール系光着色種は室温では非常に安定であるものの加熱によって徐々に退色し、元の化学種に変換された。既存のプロトトロピック有機結晶には見られない熱安定性を示すという点がこの化合物の大きな特徴である。このフォトクロミックな挙動は結晶状態のみで観測されるのも特筆すべき特徴の1つである。溶液状態にしたり包接化によって単分散状態にしたりコンフォメーション制御によって分子をねじれさせたりすることで、分子会合を阻害するとフォトクロミック性が失われることから、結晶中での分子の会合状態が物性発現に深く関与していることが結論された。以上の研究実績について、第35回構造有機化学討論会および2005年光化学討論会において成果報告を行った。
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