研究概要 |
光励起状態にある分子の分子認識能を巧みに発現できる光化学反応の反応場そのものを設計し、その中でさらに分子間相互作用を発現させ、光化学反応が進行する過程の中で分子の配向性と立体化学を緻密に制御する斬新な方法論の開拓を行うことを目的とし、以下の研究成果を得た。 (1)マイクロリアクターを光化学反応における不斉環境場としてとらえ、不斉補助剤を溶媒に溶解させた状態でマイクロリアクター内を流す方法およびマイクロリアクターを作成する段階で材料に不斉補助剤を混入する方法により光反応を行なったところ、最大2.0%eeのエナンチオ選択性が発現することを見い出した。 (2)光誘起電子移動反応で発生させた9-シアノフェナントレンのラジカルアニオンの不斉プロトン化について検討した。溶媒の極性を極力下げ、電子供与体として不斉ジエンである(-)-p-メンタ-1,5-ジエンを用いた場合、およびプロトン供与体として不斉カルボン酸であるL-乳酸を用いた場合に、数パーセントではあるがエナンチオ選択性が発現することが明らかになった。 (3)ナフタレン-フラン系エキシプレックスを経由する光反応におけるジアステレオ選択性について検討した。その結果、2,3-ナフタレンジカルボン酸ジエステルとフラン誘導体との光環化付加反応におけるジアステレオ選択性は不斉官能基、分子間水素結合、溶媒、反応温度、水の添加により制御可能であり、最大34%のジアステレオマー過剰率が得られることが分かった。 (4)励起錯体の配向性・反応性の制御とそれに基づく新規光化学反応の開発を目的として、芳香族化合物とシクロプロパン誘導体との光反応について種々検討した。その結果、2,3-ジシアノナフタレンと1,2-ジアリールシクロプロパンを含むベンゼン溶液への光照射により、ナフタレン環の1位への新規光アルキル化反応が進行することを明らかにした。
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