研究概要 |
本研究では,生体系で酸素-酸素結合の開裂および生成を含む酸素活性化反応を行う非ヘム金属タンパク質をモデルとし,様々な遷移金属イオンを用いた酸素活性種を含む金属錯体の合成研究を通してこれらタンパクの機能発現機構の解明と得られた酸素活性種を含む金属錯体の機能制御を目指した. 1)酸素活性種を含むニッケル錯体:三脚型四座配位子を用いてビス(μ-オキソ)及びビス(μ-スーパーオキソ)二核ニッケル錯体を合成した.これらは低温でも非常に不安定であり,分解すると配位子のメチル基の一つがアルコールになった配位子とカルボン酸イオンにまで酸化された配位子が得られる.この酸化反応の反応中間体として配位子のメチル基の一つに酸素分子がついたビス(μ-アルキルパーオキソ)二核ニッケル錯体のX線結晶構造解析に成功した.配位子の酸化反応は,ビス(μ-オキソ)二核ニッケル錯体が配位子のメチル基から水素原子を引き抜いてメチルラジカルを生成し,ここに酸素分子がトラップされてできるアルキルパーオキソ種の酸素-酸素が開列してアルデヒドを生成したのち,アルデヒドのカニッツアロ反応が起こって進行することがわかった,2)酸素活性種を含む鉄錯体:カルボン酸イオンを含む三脚型四座配位子を用いてオキソ及びヒドロキソ架橋を持つ2種類の二核鉄パーオキソ錯体のX線結晶構造解析に世界で初めて成功した.これら二核鉄パーオキソ錯体の分光学的性質を詳細に調べた結果,配位子のカルボン酸イオンの強いπ電子供与性により,パーオキソ錯体のLMCTの位置が高エネルギー側へシフトする事がわかった.さらにオキソ架橋をもつパーオキソ錯体の酸素-酸素伸縮振動は840cm^<-1>付近に現れ,ヒドロキソ架橋を持つパーオキソ錯体(880cm^<-1>付近)に比べて低エネルギー側に観測される事がわかった.これはオキソ基の強いπ電子供与性とメカニカルカップリングによることがわかった.以上の結果から,MMOにおけるパーオキソ中間体は少なくともオキソ架橋をもつ中間体ではないこと,パーオキソ中間体の二核鉄中心のルイス酸性度は高いことが示唆された.
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