我々は、高周期14族元素であるゲルマニウムと種々の遷移金属がカルコゲン原子で架橋された錯体の構造や反応性を検討し、ゲルマニウムとルテニウムが硫黄原子と酸素原子で架橋された錯体の架橋酸素原子上をプロトン化したカチオン性錯体が常温常圧の水素と速やかに反応することを見いだした。 この架橋ヒドロキシル基を有するカチオン性錯体と水素を反応させると、水の脱離とともにゲルマニウム-ルテニウム間に架橋ヒドリドを有するカチオン性錯体が定量的に得られた。架橋ヒドロキシル基を鍵とするこのような水素分子活性化反応はこれまで例がない興味深い反応である。また本反応は可逆であり、得られた架橋ヒドリド錯体に水を加えて加熱すると水素の発生とともに再び架橋ヒドロキシ錯体が生成した。本反応の機構について知見を得る目的で水素、およびその同位体である重水素との反応を行い、速度論的解析を行ったところ、その同位体効果が小さかったことから、本反応の律速段階はゲルマニウム上から水分子が脱離する過程であると考えられる。一方、ルテニウム上に配位しているホスフィン配位子を、より電子供与性の高いトリエチルホスフィンに変えた場合に、反応は著しく加速されたこともこの機構を支持している。また反応溶媒をベンゼンからメタノールに変えた場合にも反応が大きく加速されることがわかった。 また、この水素分子活性化反応は触媒量のプロトンを添加するだけでも進行することがわかった。先のゲルマニウムとルテニウムが硫黄原子と酸素原子で架橋された錯体に1モル%量のH(Et_2O)_2BAr^F_4を加えて水素との反応を行ったところ、水素分子が2つのプロトンに変換され、錯体が還元されることも見いだした。
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